自分ブランドの磨き方ブログ

MBA、コンサル、本当に自分に必要?今の自分のブランド力で何ができるのか? 何を準備すべきなのか? 私自身の経験やさまざまな人たちとの交流を通じて、気づきなどをシェアして行きます

在宅勤務を廃止する米国トップ企業

今年に入り、政府の推進に合わせ、各企業も取り組みを本格化させている働き方改革。今まで以上に、新聞、雑誌など様々なメディアで取り上げられています。

 

とりわけ、ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実現する手段として注目されているのがテレワークです。

 

では、このテレワーク導入によって国や企業は何を期待しているのでしょうか?平成28年6月に発表された、総務省の「テレワーク推進に向けた政府の取組について」を見ると、”単に労働時間削減ではなく、生産性を向上させ、収益の拡大につながるという視点も踏まえたものへと充実させていく”という文言があります。単にワークライフバランスの推進だけに注力したものではなく、業務効率化、生産性向上などこれまでの業務量を維持もしくは向上させることを意図していると読み取れます。

 

総務省「テレワーク推進に向けた政府の取組について」

 

その総務省がテレワークの推進のよりどころとしているのが欧米での導入率です。米国では9割に近い企業で、EU諸国では、イギリスが約38%、フランスが約14%の企業等が導入していると報告しています。

 

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ところが、9割も導入されている国として挙げられた米国の、超有力企業であるIBMが、5月の末に、IBMは、全従業員の40パーセントを占める遠隔勤務のスタッフに、オフィス勤務に戻るか退社するか(つまりクビ)を求めているというニュースが流れました。

arstechnica.com

 

まだ日本が働き方改革に注目するずっと以前の90年代後半から、経営やIT改革のモデルケースとしてIBMが取り上げられていたのを覚えています(HBSのケースでもあったような・・)。在宅勤務を推奨し、業務効率化と経営効率化を実現することで成長を実現し、さらにはその成功モデルをビジネスとして活用しソリューションも販売してきたIT業界の雄の決断に、業界が震撼しました。なぜIBMはこのような決断を下したのでしょうか?

 

その理由は、IBMの財務状況は相当厳しい状況にあることが背景です。これまでITバブル崩壊をはじめ、幾度かの経営危機を部門売却などで切り抜けてきたものの、基本的なビジネスモデルは変わらず、ハードウェアやソフトウェアの販売とシステムの構築に依存していました。取り上げられることの多い人工知能AIのWatsonも話題にはなりますが、ビジネスの主力ではありません。

 

そんななかITのトレンドは、企業が自前でITの資産を持たなくてよい、AmazonGoogleといったCloudサービスにシフトしていきます。IBMもCloudサービスを展開していますが、AmazonGoogleとの差は大きく、IBMの財務状況はどんどん悪化していきます。その結果、体の言いリストラ策として今回の施策が導入されたようです。

 

実は、すでに米国のIT業界では、2013年にマリッサ・メイヤーCEO率いるヤフーで同様のことが行われています。

www.wired.com

他のメディアによると、ヤフーの表向きの導入理由は、在宅によるタイムリーなコミュニケーションが取れないことで、業務に支障をきたすことを理由に挙げていましたが、実際、ヤフー社員の間では本当に生産的の高い従業員と、会社の規則を悪用して自宅でサボっている従業員とを分別するためのフィルターと考えられているようです。エリートぞろいのシリコンバレーのIT企業においても、サボり社員をコントロールするかが課題だったというところでしょうか。

 

くわえて、ヤフーの場合、マリッサ・メイヤーCEOは在宅勤務禁止令によって、会社に対する従業員のコミットメントを試すためだと言われています。これは就業場所や就業体系にかかわらず、本当に業績を上げることにまい進し、信頼できる社員を見分ける手助けになると考えられたからだそうですが、今回IBMが同じ考えが導入の背景にあったかは定かではありません。

 

では、日本の状況はと言えば、テレワーク導入が盛り上がっているものの、政府掛け声による数値目標ばかりが独り歩きしています。すでに導入済みの一部企業では、まだまだ導入効果の分析と成果が明確になっていないにも関わらず、政府導入推進を盾に、政府目標の週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上という数値目標以上に、2日・3日と要求する社員もおり、担当部門では頭を悩ましているとも聞きます。

 

単に労働時間削減ではなく、生産性を向上させ、収益の拡大につながるという視点をないがしろにしたまま、労働時間の削減ばかりに注目し制度を導入することはどうなのでしょうか?ただでさえ国際競争力のない日本の企業が、生産性の向上と業務量の向上という大切な点を考慮しないまま、そんなことを導入する余裕があるか、心配になってしまいます。